2021年3月18日木曜日

凡学一生の優しい法律学②

 

憲法改正の基礎知識

予感

 強力な憲法改正論者の安倍総理大臣が辞任して次期総理大臣も事実上菅義偉官房長官に決定したので、次期政権が安倍政治の継続と看板を掲げても憲法改正までは継続承継しないことは確実である。
 それは生まれながらの総理大臣として育った安倍晋三(世襲議員)とそうではない菅義偉の出自の違いによる。

 安倍晋三は、選挙区の支援者が主権者でありその付託を受けて国会議員になっているという民主主義の基本を生まれながらにして知らずに成長した。
 支援者が自分に投票するのは当然であって、それは父の時代から続く、「自然の摂理」であった。

 これは安倍晋三の憲法改正への意欲にもよく現れている。憲法改正は最終的に国民投票による賛否の決定を受ける。

国民に対して一切主権者教育・憲法教育をしないで

ただ、安倍改正案に対して○×をつけるだけの投票をさせ、それで改正が達成されると信じている。
 世襲議員全員が持つ主権者国民に対する、自分の意向に無条件に賛成する支援者=投票マシン観である。さすが「ジバン」の譲受人・相続人である。

 従って、いまさら憲法改正について、基礎知識全般を声高に解説しても無知の国民には何の足しにもならないだろう。

 それでも誰かが警鐘を鳴らさねば日本はますます無法国家になる。

※参考資料:e-Gov条文:憲法
     :日本法令索引:憲法
     :国立国会図書館「日本国憲法の誕生」

1 法律改正と憲法改正

 同じ国家規範でありながら、法律と憲法との違いの一つは改正手続きにある。
 日本国憲法は改正が困難な条件にしてあり、硬性憲法に分類される。
 つまり、憲法自身に改正手続が規定されており、それは各議院の国会議員の総数の3分の2の賛成を得て、発議し、国民投票に付し、過半数の賛成を得なければならない。
 法律は国会、特に衆議院の過半数で基本的に成立する。

2 憲法の制定と改正は本質が異なる場合がある

 法律も憲法も国家を支配する権力者によって制定される。
 これは国家規範の制定を政治学的視点で述べたもので、正統的法律解釈学には存在しない視座である。

 日本は敗戦によって戦勝国(その代表者GHQ)によって明治憲法が廃止され日本国憲法が制定された。
 但し、法技術的には明治憲法の定める改正手続に則った形式であるため、GHQが全面にでることはなかった。
 憲法施行後半世紀以上の時が経過した現在、事実上の憲法改正権者は国会(衆議院)の過半数を制する政党(現在は自民党)にある。
 GHQは消滅した。つまり、制定権者と改正権者に同一性はない。

 これも日本の特殊な憲法事情である。

3 憲法改正に関する2つの主張論の系譜

 東京大学法学部教授らいわゆる権威と称される学者群によって構築された憲法解釈学の系譜と、主に政治家や評論家らによって構築された実践的憲法解釈論―主として日本国憲法がGHQの主導により明治憲法を換骨奪胎して成立した経緯を問題だとするいわゆる「外国製憲法」論である。

 前者の権威主義学説は当然ながら憲法条文全体について考察するが、後者の論者は主として憲法第9条の改正のみを議論する、際立った特徴の差異がある。現在の政治状況としては、外国製憲法論者が多数を占める政治家(自民党)主導の憲法改正運動である。

 国民は最初から最後まで「蚊帳の外」におかれた憲法改正議論である。その最大の原因は国民がまともな憲法教育を受けていないからである。この全く憲法について無知な国民に○×のみの応答をさせる憲法改正手続が議論されてきた。

 全く無知な対象について○×投票させる例が最高裁判所裁判官(信任)投票(国民審査)であり、改正主張政治家らは幾度も成功体験を味わってきており、国会の発議にまで至れば事実上の改正が達成されると考えている。

 ここにも日本の民主主義の否定・不存在が垣間見える。

4 改正論の選択

 本来なら日本国憲法全般にわたり必要な改正論を展開するのが正道であるが、憲法の知識や素養が全くない一般国民の大多数という現実を直視するなら、当面、論点となっている第9条改正に関する基本知識を学ぶのが順序だろう。

5 9条改正の歴史的経緯

 戦争放棄条項、その具体的内容の一つである軍事力(戦力)の不保持は、戦勝国が戦敗国に対して「おしつける」(求めるという表現でもおなじで、単なる用語の違いであるが、政治家・評論家にとっては、この表現こそが、無知な国民にもっとも扇情的であり訴求力の大きい表現である。印象操作。)ことは、全く不当でも国際法違反でも何でもない。東京裁判の国際法違反性とは明らかに本質を異にする。

6 9条改正議論の背景・本質

 ただ、この「おしつけ」には現実の国際情勢・共産主義国家群と自由主義国家群の対立というパワーバランス上においては、重大な欠点を有する。それは現実に日本の国の防衛は誰がどうやって行うかの問題である。9条は外国軍隊による防衛を前提とした平和条項であることは明白である。

 つまり、日本は現在も日米安保条約によって、米国の軍事力の庇護下にあり、この基本的関係は戦後一貫して継続されてきている。そうであれば、9条改正がこの米国の軍事力の庇護下にある状況を変革するものでない限り、全く無意味な改正ということになる。

 但し、今後正々堂々と軍事力を強化し、核兵器まで保有する軍事大国(政治家の言う自律国家)になるための第一歩として位置付けるなら、改正には意味がある事になる。それは同時に平和憲法の理念を捨て去ることを意味する。

 しかし、アメリカが日本の軍事的属国の実態を放棄することも現実的ではない。根拠も理由もない。

 なによりも日米安保条約の破棄が論理的前提となるが、自民党の9条改正論者で同時に日米安保条約破棄主張者は皆無である。むしろ普天間基地移転問題では積極的に辺野古移転を推進し、米国の意向に沿う政策を実行している。

 安倍晋三が何処までの政治的展望をもっているのか、その本心を本当に国民に開示するかは、現在までの「嘘」と「弁解」の強弁政治、隠蔽政治をいやと言うほど見せ付けられてきた国民には懐疑的にならざるを得ない。

 かつて安倍晋三は、誠実な自衛隊員が憲法違反よばわりされる状況は忍び難いと発言したが、当の自衛隊員にはそもそも憲法違反という自覚は存在していないほど、憲法変遷現象が進展しており、あきらかにこの理由は安倍晋三の独善であった。

 つまり、9条の文言上の改正は全く事実関係に何の影響をもたらさない。ただし、9条を解釈合憲とする解釈技術に「自営の為の」という枕詞が考案されてきたが、これが事実上不要・死語になる。

 そうすると、現在問題となっている「敵基地攻撃能力」の問題も消失するから、一定の軍備拡張は自由な政権政党の政策選択問題となり、日本の軍需産業と蜜月関係にある族議員には利権の拡大となる。ひょっとしたら、米国の軍需産業と地下で手を結んでいるのかも知れず、確実に軍事力拡張が実行されることは明白である。

 9条が改正され、堂々と軍事力が拡張され、国家予算が兵器整備に投入されるようになってからでは「阻止」は不可能である。一説では徴兵制も心配されているが、利権の伴わない政策は自民党は行わないから、その点は心配無用である。

 9条だけが自民党によって議論されるのはまさに9条が巨大な利権条文だからでもある

7 自民党が独裁的な利権政党である憲法制度的理由

 これは現行憲法制度である議院内閣制とその他の三権分立否定条文にある。国民が真に国民主権者として憲法改正するなら、この根本的制度矛盾を是正しなければならない。これは日本から利権政治を放逐することも意味する

 そのためには難解でもなんでもない平易な日本語で記述された日本国憲法を権威主義的ではないアプローチにより理解することで可能である。はやく日本国民が権威主義の呪縛から解放される日が来ることを強く希望して結語としたい。

※参照資料ーー(データマックス)【凡学一生の優しい法律学】



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